0◆ No.11〜No.20




No.11  追いかけっこ
No.12  伸びる手
No.13  笑う女
No.14  侵入を試む男
No.15  コンビニ
No.16  横切る人
No.17  巡回する者
No.18  生きている絵
No.19  集合写真
No.20  ふりむく影


■■■No.1〜No.10

No.21〜No.30■■■

◆ No.11
◆ 追いかけっこ
今年の新入社員であるT美さんが小学校6年生の時に体験した話です。
休み時間、彼女は友達と一緒にトイレで、おしゃべりをしていました。
すると、突然トイレの入口が開けられ、一人の少女が勢いよく飛びこんで来ました。
知っている子だったので、彼女は、とっさに掃除用具入れの扉を開け、
「早く、こっち、こっち。」
と、少女に用具入れの中に入るように促しました。
彼女と友達は、少女が追いかけっこの末、トイレに逃げ込んで来たと思い、かくまおうと思ったらかです。
案の定、少女は、迷うこと無く掃除用具入れのなかに飛び込んでいきました。
彼女たちは、少女の為に平静を装い、追っ手を待っていました。
しかし、当然やってくるはずの追っ手は、いつまで経ってもやって来ません…。
そのうちに、いたずら好きのT美さんは、少女の入った用具入れの扉に寄りかかり、彼女が中から出られないように足を踏ん張りました。
暫くして、用具入れに入った少女はそれに気づいたのか、中から扉を開けようと内側からすごい力で押し始めました。
彼女は足を突っ張り、扉を開けさせないように必死に踏ん張りました。
彼女の友達も、彼女を手伝い一緒に扉を押さえていました。

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
突然、用具入れに閉じ込められた少女が中から扉を激しく叩き始めました。

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
しかし、T美さんと友達はひるむコトなく、いっそう足を踏ん張り扉を押さえました。

扉は、しばらくの間激しく叩かれていましたが、そのうち、
ドン!・・ドン!・・・ドン!・・・・ドン!・・・・・・・・
と、しだいに扉を叩く力が弱くなり、ついに何の音もしなくなりました。
しかし、T美さんと友達はやめることなく踏ん張り続けていました。
「ねぇ、T美ちゃん。もう、やめよ。中で泣いてるかもしれないし…。」
さっきまで彼女を手伝っていた友達が彼女にいった。
「そうだね、もうやめようか。」
T美さんと友達は扉の前から離れました。
しかし、いつまで経っても少女が出てくる気配はありません。
「ごめんね。もうやらないから、いじけてないで出てきなよ。」
T美さんは少女に声をかけながら、用具入れの扉を開けました。
「………………………!!」
- 用具入れの中には、誰もいませんでした…
当然、この扉以外に抜け出す場所はありません。
T美さんと友達は唖然とし、パニックに陥りました。

結局、この話は全校に広がり、同様の話も出たりして大騒ぎになりました。
「確かにあの子は知っている子だったけど、彼女の名前や学年、クラスは、どうしても思い出せないんです…」

◆ No.12
◆ 伸びる手
JR京葉線・新日本橋駅に部下『M』と二人でいた時の話です。
私たちは一番後ろの車両に乗るために、下り線ホームの東京駅に一番近い側に立っていた。
その壁際のところに、奇妙な人の形をした染みがあるのに私は気がついていました。
「気味が悪いなあ。まるで女性が手招きしてるみたいじゃないか。」
なあ、と同意を求めて振り返ると、後ろで部下がうずくまってしまっていました。
「どうした?」
「課長…助けてください。」
この部下は、ものすごい霊感の持ち主で、そういう場所、そういモノにあうとすぐわかる。
「どうしたっていうんだ。」
「ひっぱられるんです、助けてください。」
うずくまり、上体は後ろに反らしているというのに、彼の足は『ズズッ、ズズッ』とホームの方へずれて行くのです。
真っ青になった私は、とにかく彼を壁の方に引いて、ホーム中央に移動しました。
彼が引きずられた距離はたかだか20センチ程だったが、あのままではいずれ転落したはずだ。
「何があったんだ。」
「課長、あの染み、見ました?。」
「ああ、人の姿みたいで気味悪いやつな。」
「…あの染み、女の人なんですよ。」
「え???」
「あー、いるなー、と見てたら、目があっちゃったんです。
そしたら壁が一面無数の手になって伸びてきて、僕のことひっぱったんです。
…あれはすごく悪いものです。普通の人も近寄らない方いいですよ。」
と震えながら言っていた。

その後、新日本橋駅は改装されて、問題の染みも上から塗り直されたのだが、最近私はまた見てしまった。
塗り直した上に、人の姿の染みが再び浮きだしているのを…。

◆ No.13
◆ 笑う女
友達が勤めていた警備会社で数年前まで使用していた事務所での話です。
その事務所は渋谷にあり、細長い 9階建てのビルの6階ありました。
以前からこのビルにおいては様々な怪現象が起きており、 『霊道』なる霊の通り道がこの事務所内を横断しており、怪現象の原因はすべてこれらが関係しているらしい。
・・・吸っていた煙草が突然灰皿から消える。
・・・事務所内に誰もいないのに机や椅子がバンバン叩かれる音がする。
・・・窓ガラスが突然うなり声をあげ、外から誰かがこじ開ける様にバタバタ震える…。
また、こういった話を事務所でしていると、「霊道」の中に座って仕事をしている同僚が影響を受け、突然頭痛を起こし倒れるというようなハプニングが起きたりもしました。
様々な怪異の中で一番頻繁にあったのが仕事中に突然、耳もとで女性のささやき声がする、と言ったものでした。
それは、注意していないと何と言っているのか分からないような声ですが、テレビもラジオもついていない窓を締め切った室内で聞こえるのです。
外から聞こえる街頭のアナウンスの声などとははっきり違うのは、耳元でささやくその息づかいまでもが肩越しに聞こえる事でした。
普段、霊現象と無縁の人達もこの声を理由に事務所へ の待機を拒否しはじめました。
しかし、警備会社という特殊な職業のため、各事務所は『24時間体制』が義務付けられており、昼間はもちろん、夜間の宿直者も毎晩置かなければならなかったのです。
セクションの違う私は、夜間宿直のローテーションには含まれておらず安心していたのですが、ある夜にどうしても当番の都合が着かず、当番が私にまわってきてしまいました…。

当日、初めのうちは昼間勤務の同僚などが残業で何人も残っており、何事もなく通常の夜間勤務を行っていました。
しかし、22時を過ぎた頃から一人、二人と同僚が帰宅し、気付くと事務所には私一人が残されていました。更に、節電の為なのか室内は頭上の蛍光灯2灯のみを残し消されています。
怖がりである私は、暗がりの中、蛍光灯のスイッチを入れに行く勇気もなく、
「あーあ。とうとう一人か…。取り敢えず軽く仮眠を取っておこう。」
と、自分に都合の良い理屈で、そのまま机に突っ伏して仮眠にはいりました…。

『リーンリーン・リーンリーン』
現場からの定時連絡の電話に起こされました。
電話を切り、時計を見ると、2時を差していました。
寝ぼけたままトイレへ行き用事を済ませ、再び席に座り直したその時…。

バンバンバン・バンバンバン・バンバンバン!
突然、窓ガラスを素手で叩く様な音が起こりました。
「あーっ。まただよ…。」
備付けの毛布を頭からかぶり、机の上で両耳を塞ぎ早く眠てしまおうとしました…。
窓を叩く音が始まって、4〜5分程たった頃だろうか…、

バンッ!ババンッ!バン!!
今度は私周りの机が激しく、まるでドラムを叩く様に早く激しく鳴り始めました。
「やっ、やばい…!!」
私は危険を感じ、毛布を払い周りを見回しました。しかし、もちろん事務所の中には私以外の誰もおらず、今の今まで鳴っていた音もピタリと止んでいました。
私には、机を離れ室内を調べる勇気もなく再び机に突っ伏し、頭から毛布をかぶりました。

コツ・コツ・コツ……
間髪いれず、今度は何者かの足音が私の机の周りをぐるぐると周り始めました。
さすがに耐えられなくなった私は、友達に助けを求めるために電話をしました。
彼は、霊的体験豊富で、今までにも相当な修羅場を体験している。更に、魔除けや除霊にも詳しく、霊現象に関しては仲間内で一番頼りになるヤツでした。
彼は深夜にも関わらず、直ぐに電話に出ました。彼は、すぐ様電話から異変を感じ取ったらしく、ゆっくりと聞きました。
「どうしたんだ!?」
私は今までのいきさつと現状を、説明しました。
「分かった…………。いいか、よく聞けよ…。」

- パシィーーーーーーーン!! -
突如背後で何かがはじける音がしました。
振り向くと、額縁のガラスが割れていました。
しかも、額は壁に掛かったままガラスだけがまるで何かに叩き割られたようにこなごなに飛び散っています。
「ガラスが…、ガラスが…。」
私は、錯乱していました。
「落ち着け!事務所に塩はないか? 塩…。それを水に溶かして部屋の中に撒け!
入口の所には盛れ!いいか、ただの食塩じゃねぇぞ。あら塩だ、あら塩!!」
「えっ…、そんな塩、事務所にないですよ…。」
「だったら急いで買ってこい!!」
「買いに行けったって、それじゃこの事務所、誰もいなくなっちゃいますよ!?」
「何もお前が買いに行く必要はねぇじゃねぇかよ。」
「えっ?」
さっきから、電話口で笑っている女に買いに行かせりゃいいだろ!!
第一、こんな夜中に事務所へ女を引き摺り込んで、何やってたんだ?お前はっ!」

「…………………………!!」
私は絶句しました…。
彼には、電話での会話を女性が笑いながら相づちをうっているのが聞こえていました。
私はパニックになりながらも、塩を買いに近くのコンビニまで飛び出して行きました。
そして、戻るなり尋常とは思えない程の食塩水を作り、床が水浸しになる程まきました。
驚く事にその直後からピタリと怪現象は治まり、何事も無く朝を迎えました。
しかし私は、とうとう朝まで寝ることも出来ず、夏の暑い日だというのにガタガタ震えながら、翌朝代りの者に引き継ぎを行いました。

後日、当夜の夜間電話の記録テープは、処分されました。
理由は、職場に無用の混乱を招く恐れがあるためとの事であり、表向きは「機械の故障による録音不備のため消去」となっていました………。
そして、その後も幾度となく宿直当番に恐怖はふりかかりましたが、幸いな事にそれから程なく、人員整理、事務所統合のため事務所が移転となりました。
その後、事務所は借手を二転三転しましたが、長期の入居者も無く、現在は次の借手が来るのを待っている…とのことです。

◆ No.14
◆ 侵入を試む男
数年前の真夏のある夜、部屋の窓を全開にしてビデオを観ていました。
普段は、クーラーの利いた部屋で涼みながら観るのですが、数日前にビデオデッキが故障してしまったため、仕方なくクーラーの無い隣室で、借りてきたばかりのレンタルビデオを観るコトとしました。
それは私の大好きな、アクション映画で以前から観たくてたまらなかった作品でした。
しかし、何故か観ていてもストーリーが全然頭に入らないんです。
と言うより、まったく映画に集中できないのです。
「暑いせいかな?」
初めは、クーラーの無い部屋での暑さが原因かと思っていました。
しかし、今晩はそれほど暑くはない。
何気なく私は部屋の中を見渡した…。
ビデオは最高の盛り上がりを見せていたが、時間を追うに連れ、私の視線はテレビから離れ、いつしか開け放たれている、窓に注がれていました。
だからと言って、窓の外に何かがあるというわけではなく、直ぐに隣の家の壁があるいつもの風景です。しかし、目線はどうしてもそこを向いてしまうのです。
いったい何が気になるのかさえもわからずに…。
そしてそんな日々が、しばらくつづきました。
ある日、霊感が強いという友人が遊びに来ました。
「あっ…。」
私の後から部屋に入ってきた友人は小さく声を上げると、そのまま立ち止まり開けはなったその窓を指さしました。
「ごめん。ここには入れないよ…。」
「?」
窓の外から、男が覗いてるんだ…逆さにぶら下がって…
「!?」
そして、友人は逃げ出すように部屋を出ていってしまいました。
友人が言うには、男は窓枠に逆さまにぶら下がり、隙あらば室内に入ろうとしているとのこと。
「でも、何故か男は入ることが出来ずにいるみたいなんだ…」
彼はそう言って帰っていきました。
しかし私には、彼の言うことを完全には信じ切れませんでした。
その後、特に実害が無かったので、気にすることもなく、徐々に忘れかけていきました。
しかし数ヵ月後、別の友人が遊びに来ていたとき、突然部屋の前で、こう言いました。
「この部屋の外に男がいるよ…」
「えっ?」
逆さにぶら下がって、中に入ってこようとしてる…。
その言葉に私は驚愕しました。

後日わかった話ですが、家の周り自体あまり良い環境ではなく、その辺りを漂っている霊のひとつが窓から我家へ入ってこようとしているのだろうと言うことです。
しかし、母親が信心深い人間であり、家の周りのお清めなどを怠っていなかっため、一種の結界のような役割を果たして、霊が入ることを拒んでいるとのことでした。
現在その部屋は、物置として使用し、雨戸も締め切り、出入りすることはありません。
ただ、年に数回、ここを開けて欲しいとばかりに、閉じた雨戸の内側の窓ガラスの枠が、窓外の者に叩かれているるような音を出す日があります。
そして私は隣室でその音を、震えながら聞いている…。

◆ No.15
◆ コンビニ
「ちりん、ちりん…」
3月のある寒い真夜中、多忙のため徹夜業務となってしまった時の事です。
小腹が好いてきたので会社近くのコンビニに夜食を仕入れに行きました。
コンビニの狭い通路で商品を物色する為しゃがんでいた時、私の後ろで鈴の音が鳴りました。
私は咄嗟に体を起こして、通路をあけました。
「?」
しかし私の後ろには誰もいませんでした。
気のせいだったのか?私は店内を見渡したが、店内にはカウンターに店員が一人いるだけで、他に客は私だけです。
「聞き違いかな?」
私は再度、棚にある商品の物色を始めました。
「ちりん、ちりん…」
再び鈴が鳴った。
今度は、奥のドリンクコーナーから聞こえてきました。
私は慌てて、辺りを伺ったが、やはり誰もいない…。
「ちりん、ちりん、ちりん、ちりん…」
鈴の音はゆっくりとドリンクコーナーの前を移動しながら、さらに奥の生鮮食品置き場へと動いているようだった。
すると、「………」。突然に音が止みました。
私は、商品の物色を続け、2Lのお茶のペットボトルをカゴに入れ、お弁当売場へ行こうとしたその時、
「ちりん、ちりん…」
と、また鈴が鳴りはじめた…。
今度はカウンターの前を、ゆっくりと出口方向へと向かって…。
それにあわせるように、今まで本を読んでいた店員がその音の主を目で追うかのごとくゆっくりと、首を動かしていた。
「なんか、変な音がしてますね…」
私はレジを操作している店員に向かって話しかけました。
…店員は下を見たまま返事をしませんでした。
「○○○円です。」
気まずい雰囲気に、私は代金を支払いその場を足早に立ち去りました。
出口の自動ドアの前に行ったき、店員が小声で言いました。
「この時間は、いつものことですから…」
私は返事もせずに店を後にしました。

◆ No.16
◆ 横切る人
大学の友人3人、バラバラに私に話してくれた逸話です。
A君、B君、C君、S美の4人が大阪に行くため、A君の運転する車に同乗していました。
夜の東名高速を車はひた走っていました。そのスピード、時速130キロ超。
時刻は午前2時…丑三つ時を回っていました。
この時間、高速道路は行き交う車もまばら…。
しかも、今夜は山あいに霧が発生しているのか、道路には薄い靄がかかっていまた。
C君は仕事の疲れから眼鏡を外した姿勢でうたた寝してしまい、運転手であるA君以外の2人も起きてはいたが話のネタが尽きたのか、車内は静まりかえっていた。
その時だった。
 
−車の前を人が横切った。
右から、左へ、それも歩いて…。
…高速道路である。しかも車は130キロを超えている。
まともに考えるなら、車と等間隔を保ちながら人が歩いて前を横切るコトなどありえない。
3人はそれぞれ目を剥いたが、そこはそれ、あり得るはずのない出来事に、
「今のは何かの間違い!」と忘れるコトにしようとした。
…すると再び人が車を横切った。
それは、全く同じ人物だった。背の高い、男らしい…。
今の事実を口にするか、3人がそれぞれ迷ってた時、
またもや彼は車の前を横切った。
三度とも、右から、左へ。
もう見間違いとは言いにくかった。
それでも自分からは言いだしにくく、今のを果たして他の者は見ただろうか…。とおそるおそる車内を見回したが、皆、自分と同じ様に途方にくれた目をしていた。
「…今の…見た?」
「…見た…やっぱり…?」
「…男…だったよね…」
「…じゃ、同じの見たんだ…」
「…オレ、3度見たんだけど…」
「…そう…3回だった…」
「…歩いて横切ったよね…」
「…うん…」
「この速度で、車の前を歩いて横切るなんて、ありえないよね…」
「…、人間ならね……‥・」
会話はそこでとぎれた。誰もその先を口にする勇気を持たなかった。
するとS美が、恐る恐る口を開いた。

「…今の…C君に似てなかった…?」
「え?」
3人は眠っているC君を振り返ったが、C君は何も気づかず、スヤスヤと眠っていた。
「そ…そこまでは見なかったけど…。次に出たらよく見てみよう。」
3人は目をこらしていたが、しかし、4度目はなかった。

…3人が見たものは何だったのだろうか?

◆ No.17
◆ 巡回する者
中学生の頃、腹膜炎で入院していた時に体験した話です。
病室は入院棟の2階の一番端。あまり日当たりの良くない部屋でした。
6人部屋でしたが、私の他は、同じ腹膜炎で入院している方が1人いました。

寝る事に関しては『いつでも、どこでも』が自慢の私が毎晩真夜中、病室のドアがきしむ音に起こされ、不眠症気味になっていました。
同室の方に「毎晩、あんな夜中に巡回に来るものだから、眠れないんですよ。良く寝ていられますね。」
すると、「ここは、夜12時以降の看護婦の巡回はないよ。ああ、きっとそれは…‥・。
今晩、夜中に起こしてあげるよ。それが1番わかりやすいから…。」
こうして、夜を向かえる事となりました。
「ほら、起きて起きて。そろそろだよ。」
起こされた私は、眠い目を擦りながらベッドから起き上がった…。
− ガチャッ -
突如、物音ひとつない廊下でドアのきしむ音が響いた。
「あれ…。」
「しっ!。ほら、聞いてごらん。」
− ガチャッ -
続いてドアのきしむ音が響く。
どうやら音は廊下の端、私たちの病棟から一番遠い部屋でなっているらしい。
− ガチャッ -
不気味に音が響きわたる。
− ガチャッ -
「ほら、段々ちかづいてくる。」
「えっ!?」
- ガチャッ -
確かにドアのきしみはひとつひとつ確実にこちらへと近付いてくる。
- ガチャッ -
二つ隣の部屋のドアが鳴る。
「実は、この現象はここでは有名で、何故か知らないけど毎晩、夜中の3時過ぎになると決まってドアが順番に、ひとつひとつきしむんだよ…。」
- ガチャッ -
隣の部屋のドアが鳴った。
しかし、人が歩いてくる足音もなければ、気配すら感じられない。
…ガチャッ…
この部屋のドアが静かにきしんだ…。
そして、私は見た。
誰もいないはずの廊下からノブが回され、そしてゆっくりとノブが戻ってゆくのを…。
後日、この事を看護婦に聞いたが、皆つくり笑いを浮かべたまま答えなかった。

◆ No.18
◆ 生きている絵
2002年5月、私が友達数人とフリーツアーで香港へ行った時の話です。
ホテルは香港島に面し、ゴージャスな夜景で有名なホテル。
…しかしこのホテル、一歩踏みこんだ時から…感じるんです。
まあ、ホテルに霊がいっぱいいるのは普通のコトだから話題にもならないでしょうが、あの時はさすがにちょっと嫌でした。
何が嫌かって…枕元に飾ってある女性の肖像画。その絵が生きてるんです。
普通、ホテルの部屋の絵って風景画じゃないですか。
なぜ肖像画なのか…しかも憑いてる…。
そもそも人の姿をした絵には、かなりの確率で…、100年もたてば必ず憑くんですよ。
いい絵が人を魅くのと同じように、霊も魅きつけるんです。
…それはともかく、
その絵は見た瞬間から、いやぁ〜な感じでした。
私と同室の友人が、
こわがってしまい霊を弾いてしまった為に、(友人は多少の霊感がありますが、霊を見たり感じたりしないよう、自分を守るために『拒絶』する方に霊感をそそぐのです。滅多に霊を見るコトはないのですが、この絵の霊は、はっきりと見える程強かったのです。)結果、面倒は全部私に降りかかり、着いたその夜から熱や夢にうなされる羽目になりました…。
友人が塩(清め塩)を結界として盛ってくれたのですが、翌朝、私の枕元の塩はきっちり真っ二つに割れていましたし、四隅の塩は全て崩れていました。
…久しぶりに、壮絶な霊でした。

そして、旅行から帰ってきて1ヵ月が過ぎた頃、友人がこんなこと言いだしたのです。
「夜中にのど乾いてふっと目を覚ましたら、耶摩のベッドの上に女の人がいたんだ。最初は影しか見えなかったので耶摩が起きあがってるのかな、と思ったんだけどよく見ると女の人で、すぐアレだってわかった!!
髪の長い女の人でね。膝をついて、手をついて、つまり4つんばいで枕元覗き込んでた。
どうもその下に私が眠っていたらしいのです。(これでは熱も出るし、夢見が悪いはずです…)
「それでお前、どうしたんだよ?」
「見なかったことにしよう、と思ってそのまま寝た。」
「……。」
「あの女性、香港にいる間中、耶摩のすぐ側に立ってたんだよ。」
「……。」
でもそれは絵に憑いてる霊なので、チェックアウトの時は部屋から憑いて出てくるコトはなかったそうです。
私に何を求めていたのでしょうか?それても外に出たかっただけなのでしょうか?

◆ No.19
◆ 集合写真
ツアコンをしていたときの話です。
ある公立高の修学旅行の添乗でのこと。
1人の若い教師と意気投合した私は、帰りの新幹線で話に花を咲かせていました。
年も近く、互いに旅行好きという共通の話題もあり、旅行の話で盛り上がっていました。
「添乗員さんは、もう一度行きたいけど、行けない場所ってある?」
唐突に彼はこう聞いたかと思うと、淡々と話し始めました。

彼は学生時代、カメラマンを目指し、カメラ1つで全国の鉄道写真を撮りに旅を続けていたそうです。そして大学4年の時、彼が子供の頃から1度は撮りたいと思っていた場所へと念願かなって行けることとなったそうです。
そこは山陰のとある鉄道に掛かる『トレッスル橋』と呼ばれる鉄橋で、高さが40メートル以上もあるその鉄橋は大変に美しく、まさに紅葉シーズンにあいまったその情景は、彼の撮影意欲を掻き立てていました。
決して多くはない本数の列車を時刻表でチェックし、気に入ったベストポジションを探しながら彼の撮影は2日に及びました。
それは満足のいく撮影であり、念願の場所で思いを遂げた彼は、意気揚揚と十数本に及ぶフィルムを土産に、自宅へと引き上げていきました。

数日後、自宅の暗室でフィルムを現像していた彼は、撮った覚えの無い写真が混じっているのに気づきました。
それは、『集合写真』でした。
橋と紅葉をバックに、女性が5人写っていました。
しかし彼には覚えも無く、加えて手ぶれの為か、写真の彼女たちの顔はぼやけてしまって、ハッキリと写っていないのです。

「三脚のセット中に、うっかりシャッターを押しちゃったのかなぁ?」
仕方が無く、彼はその前後に撮った写真を並べてみました。
しかし前後の写真は、鉄橋を遠距離から写しているものであり、鉄橋の上を、まさに今列車が通過しようとしている瞬間をオートドライブで連続撮影したものでした。
つまりその写真を含め、前後の写真は同じ場所から連続撮影したもので、その間にこんな写真が1枚だけ混じるわけが無かったのです…。

「添乗員さん、実はその写真ここに持っているんだ。」
彼は、おもむろに財布を取り出し、その中から1枚の写真を私に手渡しました。
それには、確かに女性が5人写っていました。
ぱっと見た感じでは、橋と紅葉をバックに写した『集合写真』なのです。
しかし、眼を凝らすとそれは、『集合写真』などではなく、紅葉の山々にはっきりと浮き出した5つの顔だったのです。
実体の無い何かがそこに写っているのです。
つまりこの写真は、連続写真の中の1枚に間違いは無いのだが、その中にあるこの1枚だけに女性たちの顔が写っているのです。

「後からわかったことなんだけど、僕の行く何年か前に列車がこの橋から転落事故を起こしたらしいんだ。その際に、車体が下にあった工場を直撃したらしく、女性が5人くらい亡くなったそうで…。
あぁ、もう一度行きたいけど、この写真を見ると………。」
私は、写真をお寺などにあずけ、手放すよう彼に言いました。

その後、彼には会っていない。
あれから数年、彼はまたあそこへ行ったのだろうか……。

◆ No.20
◆ ふりむく影
僕の通っていた高校は公立ですが、美術やデザインを専門とする学校で、歴史は 明治時代からの伝統のある学校でした。
僕のクラスの映像デザイン科は、写真をはじめ、VTRやコンピュータなどの勉強を主にしていて、その関係かイロイロと怖い話には事欠きませんでした。

昔、実習である先輩達が『心霊スポット』の取材のマネごとをしたと言うことでした。
たぶん、今で言うと「ブレアウィッチィ・プロジェクト」を実行したような物でした。
彼等は、とある『でる』と言われているトンネルで撮影を行いました。
と、言っても興味本位で「偶然でも何かが写ればいい」程度の考えで、トンネルの前にビデオカメラを固定し、しばらくカメラをまわしただけで撮影を終了したそうです。

トンネルから戻って、早速独りの先輩が仲間の家で撮ってきたテープを再生しました。
すると撮影時には確認できなかった『影』みたいなものが画面に映っていました。
彼はすぐに仲間を呼び、誰かが来る度に巻き戻しては何度もビデオを再生して見せました。
5回目くらいの再生をしていた時、始めにテープを再生し確認していた先輩は何か違和感の様なものを感じていました。
違和感の原因は何だろう?そう思いながら彼はビデオを注意深く見ました。
なんと、『影』の形が変わっていたのです。
その『影』はだんだんと黒い 『物体』に変化していったのです。
その晩、テープは繰り返し再生されました。そしてその『物体』はそれにつれ次第に『人影』へと…。
『人影』は、いつしか『少年』の後ろ姿であると確認できるまでに変化していました。
さすが全員恐くなり、その晩は同じ部屋に全員が泊まり、翌日揃って登校したそうです。

噂はすぐに広まりました。
そのテープを見たいと言う友人が現れ、彼等はしかたなくそのテープを友人に貸し出す事にしました。
テープ様々な人の手を転々と渡り、そのうち彼らの耳にテープを観た人たちの噂話が聞こえてくるようになりました。
「あんなにハッキリ写っているのは初めてだよなぁ〜」
「だんだんカメラに近付いてきてるよなぁ〜」
「あの振り向きそうで見えないところが恐いよ」
「片目だけこっちを睨んでいるのが無気味だ」
と、言った内容の噂話でした。
しかし「画面の中の少年が完全にこちらに振り返った」と言う噂を聞かぬまま、やがてテープは、先輩達のところに戻ってきたそうです。
当然彼等は、二度とそのテープを再生する事もなく、編集室の何処かに封印してしまったそうです。そしてテープは、今もその編集室の何処かに存在していると聞きました。
興味はありますが、次に再生した時に『少年』の両目が睨んでいるかもしれないと思うと、探す気にもなりませんでした。

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