0◆ No.1〜No.10 | ||
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2003/05〜06
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No.11〜No.20■■■
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◆ No.1 ◆ 呪ってください 「コックリさん、コックリさん、いらっしゃいましたら、どうぞこの10円玉に降りてきて下さい…。」 私たちが好奇心にひかれ『コックリさん』をやっていたのは、二昔も前の中学生の頃だった。 毎日のように放課後、ひっそりと静まりかえった『美術準備室』でやっていた。 初めのうちは誰が誰を好きだの、自分の結婚相手の名前だの他愛のない質問で盛り上がっていた。 が、次第に今降りて来ている『コックリさん』はいったい何なのか?という質問になっていった。 「コックリさん、あなたの正体は何ですか?狐ですか、それとも狸ですか?」 ……ニ・ン・ゲ・ン…… 「名前は何と言いますか?」 ……フ・ジ・モ・ト…… 『フジモト』と名乗る人間らしき霊の出現に私たちは興奮した。 私たちの間では、人間の霊は徳が高く動物霊と違い祟らない。その上、当時出版されていたその手の本では、的中率も高いと言われていた。私たちは、翌日からいっそう『コックリさん』にのめり込んでいった…。 ある日、いつものように放課後『コックリさん』をやっていると、めったに顔を出すコトのないMがやってきた。 彼は入って来るなり、私たちを覗き込み、こう言った 「おっ!バカが揃ってインチキ占いやってらぁ!!」 M自信は、私たちに悪気や恨みがあるわけではなく、ただ単によこやりを入れつつ、きつめのギャグを言ったつもりだった。 しかし、彼と折り合いが悪く、その手のギャグを理解出来ない人間が1人いた。それがSである。 「S!!お前、こんなコトして試験のヤマでも張ろうってえの?そんな狐だか狸だかわからん連中を信用する前に、帰って勉強でもした方がいいんじゃねぇ〜の?」 「何だとぉーーーーー!!」 Sが叫ぶと同時に、文字盤の上の10円玉が激しく回り始めた。 10円玉は次第に大きく、そして早く、激しく回りながら円を描き続ける…。 Sを含む4人ともが10円玉にのせた指が離れないように必死になっている。 「こっ、これはいったい…。M!やめろ!!フジモトさんが怒ってる!!!」 「バカじゃん!そんな脅しをかけたって、怖くないぜ!!」 「…。」 「お前ら全員、脳ミソ腐ってるんじゃない?コックリさんに名前なんかつけてよ。」 10円玉の回転はさらに激しさを増してゆく…。 そして、Mの横槍にたまりかねたSは、顔を真っ赤にし、大声で叫んだ!言ってはならない言葉を……… 「フジモトさん!どうぞ、Mを呪って下さい!!殺しても構いません!!!」 すると、あれだけ激しく回っていた10円玉がまるで波が引くかの如く『スーッ』静かに止まっていった。 「はい」 10円玉はそう書かれた文字の上でピタリと止まった。そしてそのまま動くコトはなかった…。 気まずい雰囲気が漂った…。 Mは一言も口をきかずに教室を出て行き、私たちも『コックリさん』をやるのは止めようという話になった… 数日後の放課後、あれ以来私たちは集まらず、本来自分たちが所属しているクラブ活動に各々参加していました。 夕方の4時をまわった頃だったでしょうか。突然校庭に、サイレン音と共に1台の救急車が入ってきた。 救急車は校庭を突っ切ると校舎1階にある『美術準備室』(そう私たちが『コックリさん』をやっていたあの教室)の前に止まり、教室の中から誰かを運び出し、再びサイレン音を響かせ走り去っていった。 事故かもしれないと思った私は『美術準備室』へと向かった。 騒ぎの収まった『美術準備室』の入り口では美術部の女の子が取り乱して泣いていた。 「どうしたの?誰かケガでもしたの?」 「Mさんが…、Mさんが…。」 ただごとではない彼女の怯えように不安を感じた私は、教師の制止を振り切り『美術準備室』のドアを開け中に飛び込んだ。 「うっ…。」 室内の異様な臭いにたじろいだ。もともと油絵や石膏などの画材が保管されていた場所なので独特の臭いはあったが、いま部屋の中に漂っている臭いはあきらかにそれらのモノではない。 椅子や机が散乱する中、吐き戻したであろう血の混ざった汚物が床一面にあった。 尋常ではないコトが起きたのは誰の目から見ても明白であった…。 そのあと、だいぶ冷静を取り戻した彼女に、その時Mに何が起きたのか聞くコトができた。 その日、彼は珍しく『美靴準備室』にやってきた。いつもなら後輩に準備をさせていたので、めったに来るコトのなかった場所である。先に来て道具を準備していた彼女は、突然の珍客に軽く一言二言挨拶を交わし、準備を続けた。 「あれ?何だコレ?」 Mは怪訝そうな声を上げながらゴミ箱に何かをまるめて投げ込んだ。 そして、Mは彼女に声をかけようとゆっくり彼女の方を向いた時であった、 「… ぐあぁぁぁっ …」 大きな声を発しながらMはその場にうずくまった。 彼女が驚き駆け寄ると、Mの足元は既に血の混ざった汚物にまみれていた。 そして、突如立ち上がり、奇妙な声を張り上げ、口から汚物を吐きながら『美術準備室』内を暴れ回った。机や椅子を投げ散らし、狂ったように床の上をのたうち回った。 その間、彼女は部屋の隅で何も出来ず耳を塞ぎ震え泣いていたという…。 そして、床に倒れた拍子にMはピタリと動かなくなったので、彼女は職員室へと飛び出していったのだった。 私は、あとからやって来たSと共にMが捨てたと言う何かを探した。 まるめて捨ててあったそれは…、数日前、帰宅途中の河原で燃やし、川に流したはずの『コックリさんで使った文字盤の燃えかす』だった。…私たちは絶句した… Mの病名は『急性脳腫瘍』とのコトであり、私たちが病院に見舞いに行けるようになった時でも、意識はあるものの半身麻酔の状態で、体を満足に動かせない状態であった。 彼の両親が医者から聞いた話では、腫瘍の状態からみて、つい最近に発病したのであろうというコトだった。 ただ、医者は『あまりにも急すぎる発病に首をひねっていた』といい、両親は原因に心当たりが無いか私たちを質問攻めにした。当然『コックリさん』の話など出来るわけもなく、結局体育で転んだコトが原因ではないかというコトに落ち着いた…。 後日、Mに聞いた話では、あの倒れた日、朝から誰かに見られている冷たい気配を感じていたと言う。そして、普段ならめったに行くコトのない『美術準備室』に『行かなければならない』と思った。そう、まるで誰かに呼ばれているかのように…。 Sは、Mが入院や通院で学校を休んでいた間、その日学校で習ったコトをまとめたノートをMに届け教え続けた。 その後、Mもすっかり元気になり、2人は今でもかわらず友人である。 ◆ No.2 ◆ 少年の微笑みと黒い塊 小さい頃から霊感らしきモノがあり、いろいろな体験をしてきました。 特に大学生だった時期が1番力が強かったです。 大学4年の夏、所属していたアウトドアの部活で、恒例の夏合宿で九州に行くコトになりました。 10日間の合宿中に屋久島で2泊したんですが、その1泊目。 山の上にフィールドアスレチックがあるとの事で目指して歩いていたんですけど、 着いてみたら閉まっていました。休園ではなく潰れてしまったようです。 仕方ないので、その日は途中にあった駐車場のような、ちょっとした広場でテントを張るコトにしたんです。 その広場は断崖と岩場、小さい砂浜が見下ろせる位置にありました。 そして、岩場へと続く細い草木に覆われた下り坂があったのです。 特にするコトもなかったので、「ちょっと探検しようかな?」と下り坂に向かったんですけど、5m程進んだ所で、ものすごく気持ち悪くなり、冷や汗も出てきて、足がすくんでしまいました。 「まずいっ!!」 「この先には行ってはいけない!!」 と体全体が拒否していました。 その道は、緩やかな下り坂で、30mほどまっすぐで、そこから左に曲がっているようでした。 草木に覆われていて昼間でも薄暗い感じでしたが、それ以上にうっすらと『黒い靄』がかかっているように見えました。 結局行くのは断念したんです。 が、その時からあきらかに観られている気配を感じる様になり、空気にも圧迫感を感じるようになっていました。 その日の夜、灯りは私たちの電灯のみという暗さの中、私たちの周りが急に騒がしくなりだし、1人の少年が近くの切り株からこちらを「じぃー」っと見つめていました。 この場には私たちしかいないし、もちろん部員であるはずもない。 それにこの暗闇の中、電灯もないのにその少年をハッキリと認識できるわけがない。 その少年は、私たちの方を、何かを確認するかのように見渡していました。 「目を合わしてはいけない」 と思いながらも、目をそらすコトが出来ずに、とうとう私は少年と目を合わせてしまったんです。 すると少年は「ニコッ」と笑みを浮かべて、「スー」っと消えていきました。 と同時に辺りの気配も無くなり、急に穏やかな空気にかわったんです。 翌日、下の浜辺でキャンプするとにして移動しました。 その浜辺は、車を10台も止めればいっぱいになるくらいの広さしかなく あとは岩場が広がりその先には、先日上から見た岸壁があるだけでした。 売店も1件ありましたが営業はしていません。それどころか、8月の初めというのにその浜辺には、私たち以外に人は存在しないんです。…今考えるととても不自然な状況だったんですよね。 どうしても昨日のコトが気になり岸壁の方を見るとそこには岩を刳り抜いたところに小さな『祠』らしきモノがあります。 遠目に見てもその『祠』が『近づいてはいけない所』というのがハッキリとわかる程、イヤな気配が満ちていました。 夜中、急に誰かに呼ばれたような気がして目を覚ましたんです。 気になってテントの外に出て海を見たんです。 すると、海の中からいくつもの『白くて丸いモノ』が上がってきて『祠』の方へ向かっていったんです。 しばらく『祠』の周りを回っていたと思うと、また海の中に戻っていったんです。 そんな2日間が過ぎ、鹿児島に戻ってきました。 時刻が夕方だった事から港近くの公園でテントを張るコトにしました。 深夜、目を覚ました私が何気なく入り口の方に振り向いたんでが、入り口が全開に開いていて外が見えるのです。 テントは公園に張ったので外には滑り台や鉄棒、砂場といった公園の遊具が見えるはずなんですが、そこに見えたのものは、『黒くて深い茂みのようなモノ』だったんです。 「あれっ!?何だろう??」と思っているとその『黒い塊』が徐々に近づいてくるんです。そして私のすぐ隣に来たかと思ったら、「ガバァッ!!」っと覆い被さってきました。 「うわぁーーー!!!」 と雄叫びあげて跳ね起きました。 周りを見渡すと、私はテントの中にいました。もちろん入り口は閉まっています。 どうやらユメだったようです。でも意識はすごくハッキリしていましたし、『黒い塊』が体に触れた時の冷たい感触は今でも覚えています。…ホントにユメだったんでしょうか…? その後、何事もなく合宿は無事終了しました。 結局、あの少年の笑みも、黒い塊も何だったのかはわからないままでした。 この体験後、私の霊感は徐々に弱くなり始めました。 今では、昔ほどハッキリと見るコトは出来なくなりました。 ◆ No.3 ◆ 横断者 大手警備会社に所属していた、警備員Aくんから聞いた話である。 彼は阪神高速道路の夜間集中工事の警備の応援のため、東京から神戸へと出張していた。 応援と言っても作業自体は難しいモノではなく、東京でよく行われている高速道路の集中工事とさほど変わるはずもなかった。 高速道路上で工事車両と一般車両の接触事故が起きないように、『車線を規制する』。それだけのコトだ。 ただ一般の道路工事と違うのは、作業が高速道路上のため、食事やトイレで高道路を下りる訳にはいかないコトである。 そこで、作業員はあらかじめ食事を持参し、高速道路上の安全な場所で食べ、トイレは工事終了まで、ひたすら我慢しなければならなかった…。 その日もAくんは、工事帯の中程で工事車両の出入の管理をしていた。 夜8時から始まった工事もいつしか真夜中になっていた。 すると、工事帯の先頭にいるはずの新人Sくんが、彼の方へともの凄い勢いで走ってきた。 Sくんの持ち場は、工事帯の先頭で誘導灯を振り、走ってくる車両に工事帯の存在を促し、工事帯へ車両が突っ込まないようにしなければならない最も重要な場所である。 なので、そこを勝手に離れたコトにAくんは怒鳴った!! 「こらS!すぐ戻れ!!トイレだったら我慢しろって言っただろ!!!」 しかし、Sくんは違うとばかりに、大きく首を横に振りながら走ってくる。 「ちっ、違うんです!先輩!!お、お、オレ、見ちゃったんです!!!」 それでも、AくんはSくんの言い訳を聞こうともせず、 「いいから、戻れ!!」 と、声を張り上げてSくんに指示しました。 しかし、SくんはAくんのもとに来ると、半べそをかきながら、 「イヤっす。出たんすよ!!だから、あそこはイヤです!!!」 と訳のわからないコトを言ったまま、しゃがみ込んでしまい持ち場に戻ろうとしない。 仕方なく、AくんはSくんに自分の持ち場を任すと、Sくんの持ち場である工事帯の先頭へと向かった。 幸いSくんのいない間に問題は起きておらず、急いでAくんはSくんの代わりに誘導灯を降り始めた。 …1時間を過ぎても特に異常や変化は無かった。 「あいつ、何がそんなにイヤだったんだろう?」 Aくんがそう思っていたその時であった。 中央分離帯の柵の上で何かが動いた。 「えっ!?」 それは、中年の男性だった。 服装からして作業員でないコトは明らかだった。 カッターシャツを着た男性が柵の上からこちらの車線を伺っている。 「車両トラブルか…?」 反対車線で車両トラブルか何かが起きて、Aくんから20メートルほど前方にある『緊急用電話』に男性は向かおうとしている。そうAくんは思った。 しかし、深夜のため車両は少なくなってきているとはいえ、ほとんどの車は時速100キロ近くを出している。 遠くに見えている車も、あっという間に目の前を通り過ぎていく。 そんな中を『緊急用電話』を求めて車線を横断するのは危なすぎる。 「おい!危ないぞ〜っ!!そこを動くなぁ!!!」 Aくんは叫んだが、その声は男性には聞こえていない様子だった。 男性は一瞬『ゆら〜っ』としたかと思うと、こちらの車線へ降り立ちゆっくりと『緊急用電話』へ歩き始めた。 「危ないから戻れっ!!!」 Aくんはありったけの声を出して叫んだが、それでも男性には聞こえていない様子だった。 そこに、けたたましい轟音と共に大型トラックが走ってきた。 トラックは男性に気付いていないのか、一向にスピードを落とす気配がない。 そしてトラックのヘッドライトが男性を照らし出した。 「あっ!?」 その瞬間、男性はヘッドライトの光に溶け込むようにして、すっと消えてしまった。 そして、トラックは何事もなかったかのように、Aくんの横を通り過ぎていった。 Aくんは目の前で何が起こったのかわからず唖然としていた、そして、Sくんの言っていた言葉と思い出し身震いした…。 「あいつ、このコトを言っていたのか………」 Aくんが、気を取り直して仕事を続けようとしたその時、再び中央分離帯の何かが動くのを見た。 …さっきの男性が柵の上でゆっくりとこちらを伺っていた。そして「ニヤッ」と笑みを浮かべていた… この話は、阪神淡路大震災の3ヶ月前に行われた工事での出来事です。そしてこの場所は震災で大破したそうです。 ◆ No.4 ◆ 摩耶山 私と彼女、友人とその彼女の4人で、神戸へ旅行した時に体験した話です。 私の力がまだ全盛期(No.2参照)だった頃、しかも私以上の力の持ち主である友人と一緒だったコトが原因だろうか? その当時私は、力の感度を無意識の内に制御するコトが出来ていた。特に危ない、自分に危害が加わりそうな場所では、寄せ付けないために防衛本能が働き感度が無意識のうちに下がるようであった。しかしこの感度、意識して下げるコトは出来なかった。逆に上げるコトは出来たのに…。 神戸の六甲山を登り少し車で走ると、『摩耶山』という山に入る道があります。 舗装されているので走りやすく、神戸の夜景が綺麗に見えるコトから今では人気のデートスポットなんですが、当時はあまり深夜に訪れる人はいませんでした。 私がまだ二十歳ぐらいの時に付き合っていた人が、「六甲山にいい心霊スポットがあるから行こうよ。」って言い出し、私の友達とその彼女と4人で六甲山に行くコトになりました。 私達が乗っていた車には、4人乗っていました。私が運転して、彼女が助手席。友人とその彼女は後部座席に座っていました。 深夜の零時を過ぎた頃に出発して、六甲山に着いたのは1時頃でした。 裏六甲から頂上を目指して山道を登っていきました。頂上に近づくにつれて前方が見えないほど霧が濃くなってきました。 頂上に到着してしばらく雑談を交わした後に、また車に乗って走り出しました。 しばらく走っていると道が三本に分かれていて、それぞれの道の行き先が看板に記されていました。車を止め、その内の『摩耶山』と表記されている道の先を見ましたが、暗闇ばかりが続いていて何も見えません…。車内は些か緊張気味でしたが、意を決して『摩耶山』の方へ車を走らせました。車は闇に吸い込まれるように『摩耶山』の方に進んで行き、幾つものカーブを走り抜け、ついには行き止まりに突きあたってしまいました。 「結局何もなかったな…」 「もう帰ろうか…?」 みんなが口々にそう言い始めたので、引き返すコトになりました。 戻る途中に駐車場があったので、そこで少し休憩しようと駐車場に入り、夜景が見えるように崖の付近に車を止めました。 深夜の二時を過ぎていたからなのか、その駐車場には私たちの車以外に一台も止まっていませんでした。 霧は元々出ていたのですが、私たちが駐車場に入ってから余計に濃くなってきたように感じました。 この日は、夜になっても暑さが薄れず蒸し暑かったはずなのに、この駐車場に来てからは急に涼しくなり、背筋がゾクゾクとして鳥肌が立つほどだった。(…この時すでに、まずいな…、とは感じていました…) その駐車場に車を止めてから5分もしない内に、後部座席の2人がいきなり叫んできたのです。 「早く車をだしてくれ!!」 「お願い!助けて!!もうイヤー!!!」 友人の彼女は泣きわめいて、もうメチャクチャでした。 私はなんとなく感じていましたので、『刺激したり、意識したら余計にまずい』と思い「あわてない方がいい」と言ったんですが、私の彼女はまったく訳がわからないらしく「どうしたの…?」と言っていました。 しかし友人は、「いいから早くだせよ!!」と怒鳴りだしました。 あまり騒ぎ立てたく無かったのですが、友人の尋常でない態度に、急いで車を駐車場から出すコトにしました。 車を走らせながら「何を見たんだ?そんなにやばかったのか…?」と尋ねましたが、ブルブル震えて何も答えようとしませんでした。とりあえずお茶でもと言うコトで、山を下りてファミレスに車を止めました。 そこでもう一度、「何を見たんだ…?」と聞くと、やっと重い口を開き「お前、見えなかったのか?」と言いました。 「やばいのはわかっていたけど、刺激しないようにしていたから…」と言うと、 「そんなレベルじゃないんだよ!!4,5歳の男の子や女の子がいっぱい手をつないでオレらの車を囲んで『かごめかごめ』の歌を歌いながら近づいて来たんだよ!!」 友人が言うのですから本当の事でしょうが、とりあえず無事に戻ってこれたので特に気にしていませんでした。 「とりあえずお茶でも飲んで落ち着こう」と言って車を降りました。 車から降りた私は、友人の異様な怯え方の意味がやっと理解できました…。 私たちの乗っていた車に無数の子供の手形が着いていたのです。 摩耶山に行く前に洗車はしていないので、軽くホコリが着いていましたが、そのホコリがわからないほど『ベタベタ』と触り回ったように、隙間がないほどビッシリ着いていました。その手形はどう見ても子供の手形でした。 車はすぐにガソリンスタンドに持っていき洗車し、レンタカーだったのでそのまま返却しました。 『摩耶山』付近で昔何があったのかは知りませんが、一つわかったコトがあります。『かごめかごめ』の歌の意味です。 『かごめかごめ』にはいくつかの解釈がありますが、どの解釈にしても決して『お遊びの歌』ではないのです。 その中の一つの解釈を説明しましょう。 1フレーズ目「かごめかごめ」:これは『籠の目』ではなく、『籠の女』で『籠女(かごめ)』と言うそうです。 『籠女』とは、身ごもった女の人のコトをいいます。 2フレーズ目「かごのなかの鳥は」:これは読んで字の如く、『お腹の中の赤ちゃん』のコトをいいます。 3フレーズ目「いついつであう」:これに歌われる『であう』は『出会う』ではなく、昔風に言って『出やう』で意味は『出よう』という意味で、『いつ出てくるの』というコトなのです。 4フレーズ目「夜明けの晩に」:普通、夜明けに来るのは朝です。それが『晩』になっているのは不可解です。実は『晩(ばん)』ではなく、出産を意味する『娩(べん)』のコトなのです。 5フレーズ目「鶴と亀がすべった」:今も昔も、鶴も亀も『おめでたい』意味があります。それが『すべった』というコトは…流産か死産で子供が亡くなったコトをいいます。 そして最後のフレーズ「うしろの正面だぁれ」:後ろを振り向くと亡くなった『水子』がいる… …という意味の歌だそうです。 特別版「かごめ歌の謎」 ◆ No.5 ◆ 交差点 「霊というモノは、なにも人気のない寂しい場所に限って現れる」というものではない。 これは、友人のY君が渋谷駅前のスクランブル交差点で体験した話です。 その日も彼は、いつものように営業の外回りから会社に戻る途中だった。 まだ明るい夕方。 Yはその交差点で、信号待ちをしている向かい側の人だかりを何気なく見ていた。 ふと、その中の一人の女性に目がとまった。 年の頃は二十歳くらい、髪を肩まで伸ばし、真っ赤なコートを着た、Y君の好みの女性だったという。 「うわーっ!いい女だなぁ!!あんな女性が俺の彼女だったらなぁ…。」 と、本能のままYはそう思った。 やがて、信号が青に変わり四方から一斉に人の流れが動き始めた。 彼女も人の流れに乗ってこちらへ歩いてくる。 Yは、わくわくしながら、少しずつ彼女の方に軌道修正しながら歩いていった。 「あわよくば声をかけてお茶にでも誘おう、それが無理でも、もっと近くで彼女を見たい。」などど思ったらしい。 Yは、歩く速度を速めていった。 彼女もこちらへと向かって来る。わくわくどきどきの瞬間が迫ってきた…。 が、Yは足を止めた。 何か彼女の様子が変なのだ…。 彼女の後ろから、早足で交差点を渡りきろうとする男性がやってくる。 人の流れをぬうようにこちらえと…。 男性が彼女の背後に近づいた次の瞬間、男性は彼女の体を突き抜けて飛び出してきたのだ。 Yは慌てた………。 そして、呆然としている目の前で、周りの他の人達も次々と彼女を突き抜けていった。 もう、Yの頭の中には声をかけるなどという選択肢はなく、一刻も早くこの場から離れるコトしかなかった…。 そして、真っ赤なコートが、Yの脇をまるで空気が流れるかの如く『スーッ』と通り過ぎていき、四方からの人の流れにぶつかり、交わり、その波間へと消えていった。 Yは、渡りきった交差点を暫くの間、声も出せずに眺めていた…。 それから半年後、Yから連絡があった。 例の真っ赤なコートの女性をまた見たとのコトだった。 しかも今回はすれ違いざまに彼女がYに話しかけてきたらしいのです。 「また、会いましたね。」と…。 Yは「えっ!?」と思って振り返えりました。 すると彼女は『ニコッ』と微笑みながら『スーッ』と消えていったそうです。 Yの話だと、この他にも老人や他の女性・男性が信号待ちしているらしい。 今回の真っ赤なコートの女性のように害のないモノもいれば、あきらかに敵意を持った霊も多数いるとのコト…。 不用意に目を合わせたり、近づいたりしない方がいいみたいです。 ◆ No.6 ◆ とっておきの部屋 確かあれは、『食欲の秋!味覚の紅葉と紅ズワイガニ食べ放題!』などと銘打ったバスを使った○○島ツアーの添乗をした時のことだった。 朝8時に池袋を出発し、関越道経由で新潟港からフェリーに乗り島へ。 夕方にはホテルに到着の予定が、途中様々なアクシデントにより、ようやく私たちがホテルについた時には、すでに日は暮れ辺りは真っ暗になっていた。 「遠い所、お疲れ様で御座います。このあとの、お客様のご案内の方は手前供でやります。添乗員さんは、どうぞお部屋の方で御夕食まで、ひと休みなさって下さい。」 バスのお客全員のチェックインを済まし、夕食場所の説明などを終えた私にホテルの支配人が話しかけてきた。 「お陰様で、今日は久しぶりの満室でして、どたばた騒ぎで申し訳ありません。」 「じゃあ、私はバスの運転手さん達と一緒の部屋ですね。」 お客様最優先のこの業界。こういった場合は添乗員や運転手などは、一番安い部屋で相部屋になるのがセオリーであり、新人の添乗員や運転手はこういった機会に先輩の経験談や情報を教えて貰えるいい機会なのである。 私も、その日のバスの運転手と意気投合していたため、少々それを期待していた。 「いいえいいえ、添乗員さんに相部屋なんて…。とっておきの部屋を用意してありますので、どうぞ、そちらでごゆっくりおくつろぎください。」 「とっておきの部屋???」 支配人はそう言うと私を部屋まで案内しました。 その部屋は、16畳程の広さがあり、驚くほどに綺麗で、更に小規模ながらも個室風呂まで付いている。 窓からの眺めもたいへんに良く、窓からは「蛍イカ漁」に行く眩い光を放つ漁船たちがまさに今、港を出て行く姿が見える。 「おかしい…。」 それは、あきらかであった。 今日のこのホテルの宿泊者は間違いなく多いはずである。 なぜなら、私のお客さんが2人部屋を希望したが満員を理由に断られているのである。 加えて、入り口に掲げてある『歓迎』の看板には5コースものツアー名が書いてあった。 通常なら、この部屋には最低4人、この状態ならば6人は宿泊させる事ができるはずである。 私には、嫌な予感がしていた。 案の定、私の予感は的中した。 大広間でお客さんとの夕食を終え部屋へ戻った私はドアを開け驚いた。 部屋の中に線香の臭いが立込めているのだ。 「やられた…。」 しかし、他の部屋が満室と分っている今、部屋の変更などできるはずもない。 しかたなく、早めにお風呂に入りさっさと寝てしまうことにした。 もちろん、この部屋にある風呂に入る訳もなく、大浴場へとむかった。 風呂から戻ると、再び私は驚いた。 真っ暗な部屋の中に付けてもいないはずのテレビが明るく光っていた。 ここのテレビは一昔前のコインを入れて数十分見れるというものであり、かってにテレビが付くはずもなく、また万一私が消し忘れたとしても、入浴中に消えているはずなのだ…。(残り時間は有効利用いたしました…) 私は、がむしゃらに布団を頭からかぶり眠った。 - ドン!!………ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン・ドン! - 激しく何かを叩く音で、私は目を覚ました。 それは、右隣の部屋からであった。まるで壁を叩くかの様に部屋全体が痺れる、そんな感じの音であった。 「うるさいなぁ!ヨッパライが…。まったく、寝かしてよー。」 外はなお暗く、手元の時計は2時を少しまわっていた。 しばらくするとその音もやみ、ふたたび静寂が戻ってきた。 私は、布団をかぶった。 途端、部屋全体の空気が重くなり私は身動きできなくなってしまった。 - パタ・パタ・パタ・パタ・パタ・パタ・パタ・パタ - 枕元を小さな足音が走り回っている。 はしゃぐように走るそれは、あきらかに子供の足音だった。 いつの間に寝てしまったのか、私が気が付いたのは翌朝のことであった。 このツアーは朝早くホテルを出発のため、私は、昨夜の事など気に掛けないよう急いで身支度を済ませ集合場所であるロビーへと部屋をでた。 廊下へ出た途端、ゾッとなった。 夜中、壁を叩いていた右隣の部屋がないのだ。 いや、正確に言うと扉に目張りと釘が打ち付けてあり、現在は使用されていなかったのだった。 ロビーは5種類ものツアーが入り乱れパニック状態であった。 ツアーの出発準備に追われる私の耳に、支配人が他の添乗員と話す声が聞こえてきた。 「昨日は、相部屋で窮屈さまでした。今晩はとっておきの部屋をご用意しておきますから…」 「……………………!。」 後日、ベテランの添乗員から聞いた話では、あの小さな足音の主は、以前右隣の部屋の無理心中で亡くなった幼い少女のものだと言うことだった…。 ◆ No.7 ◆ 草をむしる老婆 「なあ、君はオバケや幽霊って信じるかい?」 唐突に、N氏が私に話しかけてきた。 私は盲腸をこじらせ腹膜炎、N氏は左足複雑骨折にて入院中のベットの上での事である。 「さあ…。僕は信じていますけど、他の人はどうなんでしょうね。」 「そうか。実は、俺も信じているんだ。とは言ってもつい最近信じ初めたんだけどな。」 そう言ってN氏は、ギプスで固められた左足を指差しながら笑った。 「この足は幽霊に折られたんだ。俺は今でもそう思っている。誰も信じちゃくれないけどな。」 N氏は新聞配達をしながら専門学校に通う奨学生だった。 彼の担当地区は他の地区に比べ狭く、配達件数もそれほど多くないのに、仲間の間では人気のない区域だった。 それは、担当地区の中に墓地の敷地内を横断しないと配達ができない2軒の家があるからだ。 しかし幽霊など信じていない彼には、最高の地区であり仲間の怯えようが信じられなかった。 ましてや、自分がその当事者になろうとは夢にも思っていなかった…。 その日は前の夜から激しい雨が降っていた。 いつも通り朝刊の配達に出た彼は、墓地奥の2軒の配達へとやってきた。 まだ真っ暗な早朝。加えて、この豪雨のため、墓地の奥の視界はひどく悪く、墓地のところどころにある街灯だけを頼りにバイクを走らせねばならなかった…。 2軒目のポストに、ようやく新聞を放り込み彼は大きな溜め息をついた。 いつもなら、往復で2分もあれば済むところを片道に3分以上もかかってしまった。 たいした時間では無いが、こんな雨の日はとにかく1分1秒でも、はやく帰って熱いシャワーでも浴びたい。 - こんなんじゃ、何時に終わるか分かったもんじゃない。 - 彼は来た時よりも速いスピードで、墓地の出口に向かって、バイクを走らせた。 何本目かの街灯にさしかかると、その下に白い大きなごみ袋がおいてある。 − あれ?来るときは何もなかったはずなのに…。 - 好奇心にかられた彼は、その物体を確認すべくバイクで近寄った。 大きなごみ袋に見えたそれは、雨にうたれうずくまっている白い着物の老婆であった。 老婆はこちらに気づく様子も無く、うずくまったまま独りで何かを呟いていた。 - ははぁん。これは、嫁とケンカでもして家を飛び出した、近所のバアさんだな。 - 厄介ごとに巻き込まれるのが嫌な彼は、この場を素早く立ち去ろうとした。 と、その時老婆がこちらを向き、立ち上がった。 そして、バイクの眼の前を、すたすたと横断し始めたのだ。 その着物はこの雨にもかかわらず、全く濡れていない。 それどころか、着物の裾は静かに風になびいている。 老婆は再びしゃがみ込むと小さな墓の雑草をむしりだした。 それは異様な光景だった。 泣き声とも叫び声ともつかない嗚咽を漏らしながら、老婆は草をむしり取っている。 N氏はバイクにまたがったまま、その場にたちつくしていた。 老婆の背中が突然大きくゆらいだ。ゆらぎはしだいに大きくなり、ゆっくりと眼の前から老婆は姿を消していった。十数秒程の出来事であった。 配達の事などもう彼の頭の中にはなく、パニックに陥った彼はバイクを無我夢中に走らせた。 見通しの良いT字路にでた。正面には見慣れた販売店が見える。 - 助かった - 彼が安心したその瞬間!! いままでいなかったはずのトラックが、突然バイクの目の前に現れた。 とっさの事にバイクは避ける間もなく、トラックの下に挟まれ50メートル程アスファルトの上を引き摺られる。 やっと、止まったトラックの下から這い出そうとした時、彼は左足に走る劇痛に耐えきれず気を失った。 次に目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった…。そして、全治9ケ月。そう告げられた。 もちろん周囲の人は彼の話を信じなかった。 販売所の人たちは当然のこと、両親まで老婆を見たというだけでなく、それが幽霊だったなどという話など信じてはくれなかった。 N氏は誰にも話を聞いてもらえず、半ばイライラしながら病床に伏し続けた。 …そして3ケ月後、その隣りに私が入院したのである。 さてN氏が入院して数日後、彼の先輩で新聞配達の仲間でもあるT氏がお見舞いに訪れた。 T氏はN氏のもっとも親しい友人で、N氏は彼にもまた老婆の話を繰り返した。 …当然だが、彼も真に受けた様子はなかった。 「そうか。あの地区は今までみんなで代わりばんこに配達してきたんだが、明日から俺が担当することになったんだ。お前がそこまで言うんだったら、ひとつその老婆がいたという場所を見てきてやろう。」 「頼む、おちおち寝てもいられないんだ。」 「配達を終えたら、まっすぐここに来て教えてやるよ。だめだったら電話ででも…。」 「ありがとう。」 N氏は地図を描き、詳しい説明と老婆の姿も事細かにT氏に伝えた。 翌日、N氏はT氏からの連絡を今か今かと待ち続けた。 そこへ知らせが…。それは思いもよらぬ内容だった。 T氏が事故!。しかもN氏と全く同じ場所、同じ時間、ほとんど同じと言ってよいトラックにバイクごと引きこまれ、N氏同様左足を粉砕骨折、今この病院に運ばれている途中だという。 N氏の顔色は変わった。 「…ごめん! おれが変なこと頼んだから!」 目が覚めたばかりのT氏にN氏は会いに行った。 「…いやあ、お前のせいじゃないさ。だって老婆なんか見なかったぜ。…でも不思議だよな。あんな見晴らしのいい道で、雨だって降ってないのに、絶対トラックなんかいなかったはずなのに、気がついたらトラックが飛びこんできて、気がついたらこの病院なんだぜ。」 「…その気がついたらって話だけど、あの時言わなかったけど…救急車で運ばれてる途中、気を失ってるはずなのに…妙に覚えてるんだ。気を失ってる間ずっと…夢枕にあの老婆が座ってたんだ。」 「…え。」T氏の声も低くなった。 「…実は俺も…老婆かどうかわからないけど…目を覚ますまでずっと、誰かに見られてたような気がする。夢うつつで目をつむってると、誰かがじっと俺を見てるんだ…。」 「…必ず何かある。…でもこの足じゃまだまだしばらくは入院生活だし…。」 嘆くN氏に、むこうみずな中学生でもあった私は、 「じゃあ僕が見てきましょうか?」と受けあったのだった。 「僕はもうすぐ退院だし、墓地だって家の近くだもの。その上、バイクに乗らないから事故にあうってこともないだろうから…。」 退院した私はとりあえず、一人だと心細いので、同級生数人と連れだって問題の墓地を訪れた。 わんぱくざかりの中坊数人が墓地で『わぁわぁ』言って騒いでいたせいだろうか。 たちまち住職が私たちを見つけて吹っ飛んできた。 顔を真っ赤にした住職に懸命に事情を話しやっと、『遊んでいたわけではない』とわかってはもらったが、住職は問題の老婆には心当たりがないという。 とにかくN氏の書いた地図を頼りにその場所に連れてってもらうコトにした。 「あった!」 老婆が草をむしっていたという場所には、草ぼうぼうの荒れ果てた古い墓があった。 墓には、ひとりの女性の戒名が刻まれていた。 「ああここ…。」 やっと思いだした、という風に住職が話し始めた。 「このお婆さんの家族ね。数年前に九州に引っ越して、誰も墓の面倒をみなくなったんだ。手入れもしてもらえないから、こんな草ぼうぼうなんだな。気の毒に…。しかも、今年が十三回忌ときてる。」 住職は手を合わせ、低い声で読経を唱え始めた。 なるほどわかった、という顔で同級性たちはうなづいていたが、私は一人だんだん顔が青褪めてくるのを感じていた。 私だけが気づいてしまった事実。 - 4月26日。墓に掘ってある故人の命日 - それは、まぎれもなくN氏が老婆を見、事故にあったその日の日付であった。 「へえ〜、これがそのお婆さんの墓かぁ。記念に写真とっとこ。」 こんな場所へ来ると、よせばいいのに写真を撮りたがる者が必ず一人はいるものだ。 (墓地に入った時からシャッターを切り続け、問題の墓も撮影したが、後で現像してみたら…老婆の墓だけ写真が真っ白だったという) さてN氏だが、住職がねんごろに読経してくれたせいだろうか、突然9ケ月のはずだった入院が早まり、その後3ケ月くらいで退院できるコトとなった。 そして再び新聞配達の仕事にもどり、その後は何ごとも起きていない。 ◆ No.8 ◆ かわいいですね 自衛隊に入隊している友人が語ってくれた話である。 以前、彼はN県の駐屯地に駐屯しており、山岳レンジャー(特殊部隊)に所属していた。 この話はその上官(A氏)の身に起こった事である。 十数年前の夕方、付近の山中において航空機事故が発生した。 山岳部における事故であったため、ただちにA氏の部隊に救助命令が発令された。 それは道すらない山中で、加えて事故現場の正確な座標も分からぬままの出動であった。 彼らが現場に到着したのは事故から半日以上も経った翌朝の事だった。 彼等の必死の救出作業も空しく、事故の生存者はほとんどいなかった…。 事故処理が一通り終了し、彼が駐屯地に戻れたのは、事故発生から実に1週間以上も経っての事であった。 『辛いことは、早く忘れなければ…。』 後味の悪い任務の終えた彼は駐屯地に戻るなり、部下たちを引き連れ、行きつけのスナックヘと直行した。 「ヤッホー!ママ、久し振り。」 「あら、Aさん。お久し振り!。さあさあ、皆さんこちらへどうぞ。」 彼等は、奥のボックス席に腰を降ろし飲み始めた。久し振りのアルコールと、任務終了の解放感から彼等が我を忘れ盛上がるまで、そう時間はかからなかった。 しばらくして、A氏は自分の左隣の席に誰も座らない事に気が付いた。 スナックの女の子達は入れ替わり立ち替わり席を移動し部下達の接客をしている。 しかし、その中のひとりとして彼の左隣へと来ない。 『俺もオジサンだし、女の子に嫌われちゃったかな…。』 少々寂しい思いで彼は、右隣で彼の世話をやいてくれているスナックのママの方を向いた。 「Aさん、とてもかわいらしいわね。」 彼と目のあったママが、思いっきりの作り笑顔を浮かべそう言った。 『かわいい?。俺が?。』 かわいいと言われ、妙な気分になった彼は慌てて左隣へと視線を戻した。 誰も座っていない左隣のテーブルの上にはいつの間にか、場違いな『オレンジジュース』の入ったグラスが一つ置かれていた…。 その日から、彼の周りに奇妙な事が起こり始めた。 一人で食堂や喫茶店に入ると、決まって冷水が2つ運ばれてくる。 また、どんなに混雑している列車やバスの中でも、彼の左隣の席は決まって空席のままで誰も座ろうとしない。 極めつけは、一人街中を歩いていると見知らぬ人に声を掛けられる様になったことであった。 しかも決まって、 『まあ…。かわいいですね。』 と、皆が口を揃えて言うのだ。 これには、部下から鬼だと言われている彼も、ひと月しないうちに参ってしまった。 ある日、彼は部下に自分の周りに起きている奇妙な事実を話し、そしてこの件について何か知っている事はないかと問いただした。 すると部下は言いにくそうに、こう言った。 「これは、あくまでも噂話なんですが…。最近、Aさんのそばを小さな女の子が、ついてまわっているのを同僚たちが見たっていうんです。」 「小さな女の子?。」 「ええ、駐屯地の中でも外でも、ずっとAさんの側を離れずに、ついてるらしいんです。」 A氏の背中に電流が走った。 「最近って…。いったい、それはいつからなんだ?。」 「じ、自分が見た訳ではないので…。ただ皆、例の事故処理から帰ってきた頃からと…。」 「………………………………。」 A氏は思い出した。 あの時、散乱する残骸の中で彼が抱き上げた小さい遺体の事を…。 その後、A氏は近くのお寺へと行き少女の魂を手厚く供養してもらった。 以後、ふたたび彼の周りに少女は現れていない。 ◆ No.9 ◆ 逆の話 物の見方が逆になると、物語はさらに面白くなるというが、怖い話にいたっては、どっちにしても、怖いだけだと思い知らされる。 かれこれ、20年以上も前のことである。 当時、道路工事の夜間警備で東京・H市役所前へ行っていた時のことだった。 そのころは辺りに民家もなく、当然コンビニもまだ普及していない場所である。 工事の明かりと信号の明かり、そして時折走り去る車のライトを除いて周囲一帯は漆黒の闇が支配している。ここが本当に東京なのかと思わせてしまう、そんな雰囲気を持った場所だった。 工事が始まり一週間ほど経ったとき、新人の一人が食事の時にこんなコトをいった。 「先輩、タクシーの『空車』ランプって、お客が乗ると消えるんですよね。」 「ああ、そうだよ。」 「あれって、人が乗っていない時に消えてる場合ってあるんですか?」 「それは、ないだろう。代わりに『迎車』や『回送』って点くんじゃないか?」 「いや、そうじゃなくてなんにも点いていないんです。」 「故障とかなら、何にも点かないこともたまにはあるだろうけどなぁ…。」 「いえ、たまにじゃなくて毎晩なんです。」 私は彼に詳しい話を聞くことにした。 彼の話はこうであった。 交差点の前で、勤務している彼の目の前を、毎晩ほぼ同じ時刻(2時前後)に『空車』ランプの消えた(つまり賃走中)タクシーが通るのだという。 毎晩通り過ぎるタクシーはすべて違う会社の車であり、中には信号待ちで運転手が、誰もいないはずの後部座席を振り向きながら一人で話しているのを見た、というものだった。 「先輩!今日来たら無線機で知らせますから、見て下さい。」 彼はこう言って、自分の持ち場に戻った。 「先輩! 先輩っ! 来ました。黄色い奴です、どーぞっ!!」 私は、交差点からこちらへ真っ直ぐ向かってくる黄色いタクシーを目で追った。 やがて、タクシーがはっきりと見えてきた。 『空車』ランプは消えていた。 よく見ると運転手は、乗客となにやら話している様子である。 しきりに、にやにやしながら後ろを振り返っていた。 しかし、その後部座席に乗客の姿はなかった。 そこには、何も無い空間に独り話しかけている運転手の姿だけがあった。 「先輩!どうでしたか!」 突然無線がなった。 「あ……あぁ…。」 私は、去りゆくタクシーを、あわてて振り返って見た。 「………!!」 タクシーの後部には白いもやのようなモノがまとわりついていた。 今まで誰もいなかったはずの後部座席には、白くぼんやりと誰かが座っていた。 そして、こちらに振り返り『ニコッ』と笑ったように見えた。 何年か後に、ある怪談本を呼んだとき、この場所でタクシーの乗客が消た話が、心霊現象多発地域として地図付きで、紹介されていた。 ◆ No.10 ◆ メリーさんの羊 『メリーさんの羊 メエメエ羊 メリーさんの羊 まっしろね どこでもついていく メエメエついていく どこでもついていく かわいいわね せいとがわらった アハハアハハ せいとがわらった それをみて せんせいはかんかんに おこっておこって せんせいはおこって おいだした メリーさんはこまって こまってこまって メリーさんはしくしく なきだした』 誰もが1度は聞いたコトのある童謡『メリーさんの羊』。 内容はちょっとかわいそうだけど…、可愛いテンポの曲。 こんな可愛い曲だが…。 アスレチックやボートに乗れる池、庭園などがある、多目的イベント公園(?)。そこでバイトした時に起こった怪現象。 閉園前、園内に幾つもあるトイレの1つが、必ず『使用中』になっている。 そのトイレは、園内北側の外れにあり、特に周りには何もなくサイクリングコースからも園内遊歩コースからも外れている雑木林の中にひっそりとたたずんでいる。日当たりの悪い所にあるためか真夏でも肌寒さを感じる場所である。 実際に何かを見たなどという具体的な話はなく、『誰かの悪戯』という説が濃厚になっていた。確かに扉の上には人が一人通れるくらいの隙間があるので、トイレの中に入ってカギをかけ、扉上部から外へ出たというところだろう。 園内のすべてのトイレには芳香剤が使用されていて、その内の数カ所のトイレは、トイレットペーパーのホルダーの部分に芳香剤とセンサーが入っていて、ペーパーを引き出すたびに芳香剤の香りとセンサーが反応して音楽が流れるものが使用されている。例のトイレにもこのタイプが使用されていた。 利用者の多い入り口付近などのトイレではなかなかの評判となっていたが、利用者の少ないあの場所のトイレに何故使用されているのかは誰も知らなかった。 その後、開園前に『使用中』トイレを解放するのが日課となった。しかしだんだんと不思議さを通り越して不気味に思うようになってきた。 仲間内でもその話題で持ちきりになり、『誰が悪戯しているのか』『いつ使用中になるのか』を確認しようというコトになった。 数日後、後日開催のイベントの為、遅くまで園内に残るコトがあったので確認するコトにした。 閉園30分前、持ち場を離れて確認しに行った時は、『使用可』になっていて扉も開いていた。 しかし閉園後すぐに確認すると『使用中』になってた。 『やはり誰かの悪戯だな。』というコトで、扉によじ登り中へ入ってカギを開けた。 とりあえず一件落着となった。 イベント準備が終わったのは23時を過ぎていた。 帰り際に「むお1度確認してかないか?」 誰もが『悪戯』というコトで納得していたので、今更確認しても…というコトだったが、『もしも…』というホンの一粒の不安を消すためにも確認するコトになった。 園内は昼間の賑わいが嘘のように静まりかえり、私たちの足音だけが異様に響いている。 5分ほどで目的地に着いた。昼間でも異様な雰囲気を醸し出していたトイレは、更に暗闇を増し近づくのを躊躇うほどだった。 すると、誰も居るはずのないトイレからセンサーが反応した時に流れる音楽『メリーさんの羊』が聞こえてきた。 センサーはホルダーが回らなければ反応しない。風で回るほど軽いモノでもない。それにその日はそよ風すら吹いていなかった。というコトは、誰かが使用しているのか? その考えはすぐに打ち消された。園内にいる人は私たち以外は事務所に居るはずである。 それにわざわざこのトイレを使用しに来るとは考えられなかった。 恐怖で鳥肌が立つ。徐々にではあるが私たちはトイレに近づいていった。するとトイレの入口まで来たところで突如音楽が止んだ。 更に中に入りトイレを確認すると、確かに閉園後『扉を開けた』はずなのに、今は『使用中』となり閉まっている。 ためしに、ノックをしてみるが返答はない。声をかけてみても返事はない。 やはり中には誰もいない…。なら何故? 意を決して扉によじ登り中へ。…でも中には誰もいない…カギを開け外へ。 ホルダーも確認した。しかしホルダーにも異常はない。 でも…、誰かに見られている気配、頭を押さえ付けられるような圧迫感…、イヤな気配が満ちてきている。とにかくすぐにでもこの場を離れたかった。 すぐにトイレから出た。 直後、扉の閉まる『ギィーーーィ、バタンッ!!』と言う音がした。 『えっ!?』と思わず足を止め振り返った…。 するとトイレの中から『メリーさんの羊』が聞こえてきた…。 私たちは恐怖でパニックになり全速力で事務所に戻り事務長に話をした。 事務長は特に質問するでもなく疑うでもなく、ただ一言「わかった」と言っただけだった。 次の日からそのトイレは使用禁止となり、入り口は板で封鎖された。 もしかすると事務長は何かを知っていたのかもしれない…。 |
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